「異業種から学ぶ“売り方”の心と技」

デパートの紳士服売り場での体験


スーツを買いにデパートへ行った時のことです。
私の洋服の買い物は店の傾向がほぼ決まっているうえ、色柄もほとんどいつも同じですので、 ほぼその種の店へ行けば気に入る服は揃っており、瞬間芸のようにして買い物は終わります。
その日決め手となったのは、店員の雰囲気でした。どちらも30歳台の男性で販売に対する熱意は感じられましたが、 試着したときに見せた共感的表現に差があったように思います。
ジャストフィットした商品に出会えた顧客の感情に自らを重ね、そのことを我がことのように喜ぶことができるのは、 仕事をして行く上で何よりも幸せなことであるに違いありません。その幸福感は驚くほどの敏感さで顧客に伝わり、決定的な瞬間となります。

デパートの婦人服売り場での体験


講演と毎月の院内研修に明け暮れる当社の向にとって、1年間にスーツを着る日数はおよそ250日を越すと思われます。
“仕事着”であるスーツを求めてデパートの婦人服売り場を訪れたときのことです。髪型や身だしなみ、 希望している服の趣味などから、人前で話す仕事をしていると感じてくれた風だったようです。
フィットする服をいろいろ出してきては、一緒になって吟味し、2〜3着を試着して最後のスーツを試着しフィッティングルームから出てきた向に対し、その女性店員は思わず叫びました。
「あら〜!素敵じゃないですか!」
我がことのように喜んでくれた表情に、向の心は動きました。喜びへの共感が決定的瞬間となったのです。
更に、包装を施されたスーツを紙袋に入れ、件の女性店員がにこやかな表情で向の前に現れ、紙袋を丁寧に手渡しながらこう言ったそうです。
「お似合いになる服があって良かったです。どうか、ご活躍なさいますように」
自分も関わって決めたスーツが、とても似合っていたことに素直な喜びを表現した彼女が、 最後の別れ際に伝えたかったメッセージは、このスーツを着てどうか良い仕事をしてほしいということだったのでしょう。 とっさの言葉としては、中々言えない言葉が決めゼリフとして口から飛び出たのでした。 向にとっては正に鳥肌が立つほどの『真実の瞬間』であったのです。

事例における真実の瞬間


生活に疲れ、嫌々仕事をしている人から物を買いたくはありませんし、 そのような人のサービスを受けたいとは思いません。
絶対に「売りたい」と思っている売り手と、それほど「買いたい」とは思っていない買い手との間には、 容易には埋めることのできない『距離』が存在します。
しかし、どのような場合でも顧客に払われた関心は、職種や立地環境を越えて、いつの時代でも売り手と買い手の距離を縮めてくれるものです。
そして顧客に対する配慮や礼儀正しさは、職種や立地環境を超えて、いつの時代でも顧客が求める本質です。

この文章は、株式会社DBMコンサルティング発行「Management Club Report Aug.2010/Vol.91」
宮原秀三郎著「Monthly Opinion『医院メッセージの伝え方』」の内容を一部抜粋したものです。




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