「歯科の2000年代-コンサルの勃興と患者の目」

  歯科コンサルタントの勃興と憂慮
2000年代の歯科界の特徴のひとつは、当社のような歯科医院経営のコンサルタント会社が増えたことでしょう。 このような事態を私たちはある種の危機感を抱いて見ています。当社にとっての競争相手が増えたからということも少しはありますが、 我が身がどうのということではなく歯科界に対しての憂慮です。
長くこの業界で仕事をし、今後も歯科界でお世話になろうと考えている身としては、どこかおかしな方向に踊らされている歯科医院が増えるのではないかという危惧を抱いています。

患者の歯科界に対する目


豊橋のインプラント使い回し事件などは、かなり大きな社会的関心を集めました。 『入試問題漏洩』『ヤミ献金』『セクハラ』『インプラント死亡事故』、そして『使い回し事件』。 これらの事件とコンサルタント会社の勃興が直接関係しているわけではありませんが、 コンサルタントに頼ろうとする心根の部分と歯科界をとりまく軽薄な風潮とが、少なからぬ影響を与えている ように思えてならないのです。

新聞沙汰になるような不届き者の歯科医師は論外ですが、注射針の使い回しなどということも聞いたことがありますし、 患者にかけるエプロンがディスポーザブルではなかったり、事の大小は別にして衛生意識と患者の感性に鈍い歯科医院は まだたくさん存在します。 グローブをしながら垂れた髪を掻き上げる衛生士や歯科助手の動き、 グローブを付けたままキーボードを叩く院長の行為に不潔感を抱く患者は潜在的に多いと思います。 今回の事件を発端に彼らは衛生面には相当センシティブになるでしょうから、今後そのような対応には面と向かって「不潔な行為はやめてほしい」と訴える事態が起きるかもしれません。
患者の立場になってそういう基本的なことをしっかり指摘せずに、どうしたら患者が増えるか、 どうしたら自費が多くなるかばかりを、一般企業向けマーケティング理論だけで指導する コンサルタントが多くなっているのではないかと憂えています。よしんば、そのような指摘を行っていたとしても、 「そのようにしないと悪評が立って患者が逃げる」との理由であるとか、行き着く先は『増患増収』に集約されているような気がしてなりません。

良い環境を作る心理的な足場をどこに置くか


もちろん衛生面のレベルを上げることは、結果として『良い歯科医院』としての評判を高めることになり、経営面での成功をもたらす一因になるとは思いますが、それは結果論です。 ハイレベルの安全衛生基準を設け、費用がかかろうともそれを頑なに守るのは、医療人としての矜持がそこにあるから ではないでしょうか。
「どんな小さなことでも患者を不安にさせるような歯科診療を行うなんてことは腕が腐ってもできませんよ!」 こんなスカッとした啖呵を切ってくれる歯科医師でいてほしいし、そういう院長に憧れるスタッフであってほしい。歯科医院経営コンサルタントはこういう経営指導を行うべきだと考えています。
しかし世の中は需要と供給のバランスで成り立っています。 コンサルタントの一方的な価値観だけが先行しているわけではありません。 「患者の増やし方が分からない」「儲かる方法を教えてほしい」歯科医師側からそのような要求が増大していることに呼応すべく 新興のコンサルタント会社が増えてきていることも事実です。そもそも歯科医師側の心の持ちようにも問題はあるのだと思います。 最近はそのような若い歯科医師の不安心理に乗じて「経営がよくわかっていない医師・歯科医師は狙い目で、 特に競争の激しい歯科はチャンス」とばかりに他業界から転入して来る新興のコンサルタント会社が増えてきたことに危惧を感じています。

そのような状況が色濃くなればなるほど、バブル期に同じような理由から不動産会社、銀行、証券会社などにうまく踊らされていた苦い経験が重なって思い出されるからです。
他業界から転入してきたコンサルタントが全て“ハゲタカ”というわけではありませんが、どうか コンサルタントに踊らされて自分自身を見失わないように、歯科医師としての本道を歩んで行ってもらいたい と切に願っていますし、私たち自身そのような存在にならないよう足元を見つめ、我が本道を歩んで行きたいと考えています。

この文章は、株式会社DBMコンサルティング発行「Management Club Report Jun.2010/Vol.85」より 宮原秀三郎著『2010年代の始まりに寄せて』の内容を一部抜粋したものです 。




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